<96年8月3日>
発声練習の再開
(術後33日目) 
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 抗ガン剤投与のために発声練習は、6日間、休んだ。 
全くやらなかったので音が出るかどうか心配であったが、なんとか音が出たので安心した。 
夢中で稽古をした。そして「あ」行の3音までできるようになった。
  
 「吸引法」を少しやってみた。なんと、できたのである。 
しばらくして妻がお見舞いにきたので、その目の前で吸引法を発声をやってみせた。最初は呑み込み法で発声をして、それになれてくると次は吸引法で音を出してみた。
  
できた!。やっと人前で吸引法による発声ができたのである。その要領を忘れてはいけないと思い、フラフラになるまで練習をした。 
そして身体にしっかりと覚え込ませた。稽古をたくさんやったため途中で声が出なくなった。
  
 吸引法による、幻の音が私の他に確かに聞いたという人がいたことがうれしい。努力してそれが実ることはやる気を倍増させるものである。
  
 
(術後9カ月目) 
今思うと早い時期に吸引法の練習をして良かったと思う。
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<96年8月4日>
「あ」行の練習 
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<96年8月5日>
いろいろな音 
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 「やゆよわ」、「ら」行、「ま」行、「な」行、「ば」行、「ぱ」行の呑み込み法で稽古をした。 
何とか発声できる。次は濁音の稽古だ。「が」行、「ざ」行、「だ」行、「ば」行が本日の目標である。 
妻に聞いてもらって、いろいろと発音した。でもあまりうまくいかない 
。特に音が小さい。
  
 9:00頃にトマトがほしくなったので、病院から自宅に「トマトがほしい」と伝えようと思って電話をした。 
たった「ト」「マ」「ト」と3音だがいくら私がトマトと言ってみても相手に通じなかった。
  
なにしろ原音が出る確率は50%であり、音が出たらそれをトマトという音に変換するのにまた大変である。 
残念。
  
まだまだである。 
ショックである。くやしい。なさけない。悲しい。
  
 夜は、みっちり30分間稽古をしたため疲れてクラクラした。子音の種類によって、音がでたりでなかったり、また、発声するタイミング、口の開き具合等でいろいろと変化することがわかった。
  
 とにかく、毎日が新しい発見の連続である。向上していくのが実感できうれしい。稽古をした分だけ上達していく。もっともっと上手になろう。
  
 
(術後10カ月目) 
発声練習をしてわずか2週間たらずで相手に自分の意志を言葉で伝えることは無謀であった。
 
 
(術後2年目) 
「トマト」と伝えられない悲しみは今でも忘れることが出来ません。そのときの悔しい気持ちをバネにしています。
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<96年8月6日>
汗だくの練習 
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 「あ」〜「ん」の45音と濁音等で「100語」をすべて発声してみた。 
自分としては半分ぐらいの音しか判別が出来なかった。そのうちうまくなると思う。とにかく大きい音を出すことである。
  
 家の庭にある草木の名前を発声する稽古をした。2音節の発声(ゆり、柘植)は何とかできるが3音節(ミカン、ツバキ)はできない。 
20分〜30分間稽古をしていると最後には音がでなくなる。でも少しずつ上達していくのがわかる。
  
 呑み込み法で練習しているので、空気を飲むときにグーグーと鳴る。早く直さなければいけないと思う。 
それよりも吸引法で原音以外の音を出したいものである。
  
 
(術後9カ月目) 
このころだと思うが、3音節がまだ無理の段階で「チョウチョ」とはっきりと発声できてびっくりした事を覚えている。 
 
(術後1年2カ月目) 
詰まったときの音は発声しやすい。 
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<96年8月7日>
発語テスト用紙 
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 40分間、人の名前をいう稽古をした。なかなか難しい。 
再度「子音」「母音」の発声をきちんと稽古する必要性を感じた。その基本を練習してから、2音節,3音節の練習をした方がいいと思う。とにかく基本の練習だ。
  
 単音の発声を確かめるための発語テスト用紙を作ることにした。 
さあ!本格的に「子音」の稽古を始める。私が発声して妻がその音をいって、点数をつけていく。正しいときは1点、間違っているときは0点。100点満点で毎日チェックする。やってみたら42点だった。2,3日前に出来なかったことが出来るようになってくるので、興味がわき、やる気が出る。 
おもしろい。夢中である。とにかく稽古だ。
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<96年8月9日>
練習はおもしろい 
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 「呑み込み法」で発声の要領がつかめたので一大決心した。これから吸引法だけの稽古をすることにする。 
従って「あ」だけの発声につとめ、どうにかして「あ」が出せるように訓練する。なかなか難しいが自然の姿で声を出したいのと、いつでも必要なときに声を出したいがために稽古をする。
  
 確かに吸引法は楽である。吸引法で「あ」「い」「う」「え」「お」が自由に出せる様になった。 
最初の「あ」がでたら、あとはすべて出る。呼吸も楽である。自然に話をしているみたいである。おもしろい。やっぱり努力して何かを得ることはおもしろいものである。
  
 1語1語の言葉がこんなに大変なものであったとは思わなかった。言葉が自由に出せるようになったら大切にしたい。
  
 病院の中を移動するときは、発声の稽古しながら歩いている。座っているより、立たっている方が声が出やすい。
  
 
(術後7カ月目) 
横になっての発音は今でも音が出ない。 
 
(術後11カ月目) 
呑み込み法から吸引法に切り替えは、早いほうがいい。
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<96年8月10日>
最初は出ない 
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 朝、起きてすぐに発声の稽古をした。 
なかなか音がでないのであせった。口を大きく開くと「クッ」という小さい音がする。それを大切にして徐々にその音を大きく発声していくと何とかできる。でもすぐ音を出せといわれても、できない。また姿勢が悪いと音がでない。横隔膜がかなり影響があるみたいである。
  
 腹筋力を付けるために就寝前に両足をあげる訓練をしている。「吸引法」が自分のものにするため、うがいの稽古、また風船の膨らませる稽古もひんぱんにしている。
  
 発声の時に食道の入り口で「ポカッ」と穴のあくのがわかる。すなわち、そこから空気が入るのが感じられた。そのときの音は大きい。その穴が「パクィ」とあいた感じを味わったことは大変な収穫である。
  
 その後、発語テストを行う。吸引法でやって18点であった、まだまだであるが、私としては満足である。 
夜は、食道入り口の穴のあける稽古をした。なかなか難しい。首を上下にすると食道の入り口が開くことを確認した。
  
 
(術後10カ月目) 
両手を背中に組んで稽古をすると良い。そうすることによって気圧の差で食道に空気が入りやすくなる。
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<96年8月11日>
伝達板不要 
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 朝、起きて音(「あ」という音)を出すのに、23回試みて、やっと出る。 
それまでは、無声音のスースーだけである。でも少しずつ食道の入り口に穴が開くようになってきた。 
今までは妻に、私の意志を伝えるのにおもちゃの黒板を使用していたが、 
日常会話なら、黒板なしでなんとかなる。でも、他人は通じないと思う。吸引法での、穴のあき方もわかったみたい。楽な姿勢で声が出る。 
ただ悩んでいることは、最初に「あ」の音を出すのが大変である。自分の意志を伝えるのにすぐ音が出ないため、間の抜けた会話になる。 
音を出そうと思ったときに音を出したいものである。 
この点が解決すれば自信がもてる。 
今後は「吸引法」だけで発声する。
  
 
(術後11カ月目) 
日常会話に自身が持てたのは1997年5月下旬頃から。
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<96年8月12日>
勇気づく言葉 
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<96年8月13日>
通じる喜び 
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<96年8月14日>
病院で猛練習 
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 私の病室は5階であるので1階まで、新聞を買いに行く。 
その途中で発声の稽古をする。最初の音が出るまでに20回〜30回の練習が必要である。吸うときグーとなる。 
すなわち食道に空気が入るとき鳴るみたい。食道の入り口がまだ固いと思う。横隔膜を広げると気圧の差によって食道内に空気が入ることが確認できる。そのときの食道の入り口で音が鳴るみたいである。
  
 読売新聞の編集手帳を読んだが本当に疲れる。この欄を読むのは夕方がいいみたいである。そのかわり朝方は1面に書いてある大きい活字を拾い読みする。これでもかなりの量である。 
ときどき高い声がでる。それは空気が食道内に入っているのをふつうに発音すると逃げてしまうが、無理気味に力んで発音したときに出る。 
よくわかり、連続音節が充分に可能な音である。銀鈴会で聞くことにしよう。何しろ独自に本を見ながら、音をだしているのであるから。見てもらう人がいなくちょっと不安である。 
食道内に空気を入れるとき雑音がする。何とかこれを解消しなくてはと思う。発語明瞭度テストの最中に婦長さんが入ってきた。 
一時中止し再開。発語明瞭度テストでは今までの方式を改め音を聞いて正しければ○誤っていれば×という具合にした。 
その結果37点であった。小学生の2年の国語の本を持ってきてもらった。これを読むつもりである。
  
 夜は、小学2年の本を読んだが、相手に、あまりにも通じないので中止し、記本練習の発語明瞭度テストに切り替えた。 
やはり夜は調子がいい。でも長い言葉になるとボードに書いて自分の意志を伝えてしまう。このボードを使かわなくなるといいのだが...
  
 
(術後10カ月目) 
音が出ても出なくとも吸引法の練習が必要である。
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<96年8月15日>
発声のタイミング 
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 昨日と違って音が簡単に出た(10回ばかりの試みで)。 
3音節の稽古をした。はじめて、大量の空気を食道に入れることができたのである。自分で感じ取れる。 
この空気を音に変換するにはなかなか難しい。発声しやすい3音節とそうでないのがある。
  
 まだまだである。胸を広げて空気をいっぱいに吸い込むことができた。いままでは同じことをやっても出来なかったのに、それを思うと大変うれしい。
  
 あとは発声のタイミングと食道のしぼりあげ運動と口の中の動き方の勉強だ。それによって、自由に会話ができると思う。 
このような大量の空気を音に変換できるとかなりの長い言葉を話すことができそうである。自信がついた。 
このようにして毎日の稽古が発見につながる。やりがえがあっておもしろい。私をこのように一生懸命にさせるのは、早く話したいということはもちろんであるが、そのほかに少しずつ上達していく過程が自分でわかることである。(教わらなくても自分で発見していけるものである)
  
 最近、妻との話には、ボードを使わなくなった。日常会話では、妻に70%ぐらい通じる。 
 5音節ができるようになった。「な」「は」「ま」「ら」行が難しい。まだまだ稽古が必要である。
  
 
(術後1年2カ月目) 
いまでも「は」行はむずかしい。
 
 
(術後2年目) 
少しずつ「は」行はいえるようになってきた
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<96年8月17日>
2つの悩み 
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今の悩みは 
原音が小さい 
すぐ返事ができるようになりたい。 
 不得意な発語稽古をした結果「ばびぶべぼ」がなんとか言えるようになった。
 
 
(術後10カ月目) 
原音が小さいのは、まだまだ食道の襞が柔らかくなっていないため。すなわち響きがないためと思う。 
 
(術後1年2カ月目) 
急に挨拶をされてもすぐに返事が出来ない。
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<96年8月18日>
原音が小さい 
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<96年8月19日>
お礼が言えず 
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 すんなりと原音が出た。 
長い間、日常語の稽古をしていると疲れてしまう。退院で、お世話になった医者及び看護婦にお礼の言葉を伝えかったが、見つめられると心臓がドキドキして話が出来ない。 
それどころか、原音が出ないのだ。まだ人前では無理のようである。 
もう少しの稽古が必要である。
  
 
(術後10カ月目) 
今でも銀鈴会で朗読するとき固くなってしまう。 
 
(術後1年4カ月目) 
微妙な心の動揺が発声する食道の筋肉を固くさせてしまう。緊張すると萎縮するみたいである。現在はそのようなことはなくなった。
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