代用音声との関わりシャント音声について
(国立札幌病院:K.Tさん;北の鈴15号より)


 喉頭腫瘍で声を失った方々が、お互いに連帯し、また同じ宿命の人々の先輩として社会復帰のお手伝いをされるということは何と素晴らしいことかと、北鈴会活動には常々敬服いたしている次第です。

 喉頭がんを治療する立場の者としては、創が完冶する所までにとどまらず、その後の音声獲得までお手伝いして、はじめて医療が完結したというべきである、と考えておりますが、現実にはなかなかそこまで手がまわらず、その点では申し訳なく思うことが度々です。

 皆様御承知のように、喉頭摘出後の代用音声には、現在いろいろな方法があります。全国の耳鼻咽喉科医療機関のなかでも、その方法の選択はさまざまで、どの大学はどの方法と、施設ごとに比較的定まった方法で行われているように思います。
私が音声獲得において何よりも重要だと考えることは、方法は何であっても、まず患者さん御自身の会話への意欲と努力であります。
そして、医療側としての役割は、喉頭を摘出された個々の方々に一番適している方法はどれか、あるいはどのような選択が可能か提示できること、そのために最大限のサポートができることであろうと思います。

 したがって、われわれ医療提供者は選択肢となるべき種々の手立てをもたねばなりません。そのために、頭頸部外科医は音声獲得のための外科的手段にも習熟する必要があります。
そのような考えのも私自身は昭和56年からシャント音声に手を染めております。手術がうまくいって自由自在に第二の音声をあやつられる方々とお話しをするのは、大変楽しく、何よりの励みになります。

 シャント音声については、この会誌で何回か蝕れられているので、御存じの方々が多いと思います。その特徴は、食道発声をなさる皆様がまず修得される空気の取り込みを、口からでなく、手術的に作成した「シャント」という粘膜の管から呼気を取り入れる、という点であります。

 シャントは、気管口の後壁から食道内に作られた粘膜の細い通路で、気管、食道それぞれの頭文字であるTとEをとってTEシャントとも呼ばれます。この通路は、通常は喉頭全摘のときに、少し時間をとって一緒に作成いたしますが、勿論二次的にも作成することができます。
シャントで作られる音声も食道粘膜の振動を音源とするので、皆様の食道発声と本質的に何ら変わることはありません。
シャントの部分は粘膜の管のみにしておく場合と、管の中にブロムシンガー人工喉頭という細い管をはめこむ場合のニつがあります。後者のブロムシンガー人工喉頭は、米国のブロムとシンガー(Blom&Singer)という二人の喉頭学者が考案し製品化したもので、管に逆流防止の弁をつけて、水などが洩れないように細工してあります。
シャント発声の一番優れている点は、肺からの呼気を利用するので、どなたでも声の持続時間が平均十秒位、と長い点でしょう。
持続が長いということは食道発声にはない、大いなる利点で、長話が楽にできるということにつながります。同時に、この方法の最大の難点は、シャントが大きすぎると水洩れがすることでありますが、そうした場合、ブロムシンガー人工喉頭を装着します。

 私どもは、息者さんが癌が治って職場に復帰した際にも、声を使って仕事を続けられることを最大目標にしておりますが、TEシャントは、その第一選択になり得るものと考えております。

これからは、高齢化社会となることが常々強調されております。現在の喫煙人口からみて、喫煙由来の発癌は当面大幅に減ることはなく、二十一世紀に入っても喉頭がんの発生数はしばらくは今と大きな変化無く推移することが予想されます。

 声を温存する治療方法がより進歩し、また、今より簡便で優れた代用音声の方法が開発されることを念じて稿を終えます。

参考:シャント法