クローン技術・人工声帯等

@異種動物からの臓器移植/Aクロ!ン技術の将来展望/ B人工声帯の可能性(元の声を復活出来るか)

(平成14年:神奈川銀鈴会会報29号)

最初は異種動物からの移植についてです。移植 を分類すると、自分の身体の一部を用いる場合、肉親であれ他人であれ、人から何かをもら って利用する場合、それと人以外の動物から取り出して利用する場合があります。
人間の身体には元々免疫という働きが具わっている事は皆さんご承知の通りです。 つまり、何か自分の成分以外の異物が入ってくると、比を排除しようとする作用で、 この作用があるからこそ生命が維持されていると言えます。
皆さん、動物園でキリンがいなないたり、或いは、兎が吠えたりという場面には遭ったことは ないと思います。でも、キリンも兎も立派な声帯があるので。 そもそも声帯の元々の役目は、口から入ってきた食べ物が絶対に気管、肺の方へ行かない 様にシッカリ其処でギューツと閉め切る働きなんです。此と同時に大切なことは、呼吸をする 時には声帯はスツカリ悌いて呼吸の働きを果たさなけれぱならないということです.つまり、 喉頭というのは、時々に応じて開いたり閉じたりを確実に行う重大な役割を負っていて、その 働きは脳から神経を伝わって送られてくる信号によって動作しています。
ですから、仮に喉頭を移植するとしたら、脳からの信号を確実に受 け取る能力のある、とんでもない複雑な神経を接続しなければならないことになって、到底実 現は不可能と言えましょう。
実は、アメリカで二十年位前ですが、種々議論された上で喉頭移植が行われたのです。ところ が、その後改めて検討したところ、呼吸は気管口で充分であり、又、声の復活では食道発声な り電気喉頭で対応可能である。何も、徒らに複雑で実現不可能な手法を採るべきではないとの 結論となって、以降は喉頭移植は捨て去られたというのが実態です。

次はクローン技術の将来展望ということです。
此については勿論私は専門ではありませんが、一般医師の立場からお話ししてみます。クロ; ンという言葉は、元々はガーデニングの分野で使われてきたもので、木の枝の先を切って土に 挿すと根が伸びて、元の木と同じに育つ、これがクローンです。つまり、卵子と精子の結合に よる固体発生ではない仕組みで行われる固体発生と云えます。
畜産業に於いては、種々な研究が進められていますが、人間では当然ですが、倫理上の観点か ら禁止されている訳です。恐らく此の質問を出された背景には、将来に於いて、ク ローン技術によって喉頭再生が出来る様になるのだろうかということがあるかと思いますので 説明しましょう。
骨髄にある胚細胞は、人の種々な器官に成る基で、これを利用して、例えば、肝臓を造れない だろうかという研究が進められています。然し乍ら、唄とか中指とか、喉頭もそうですが、複 雑極まりない神経と繋がって機能するものですから、此は二百年経っても無理であろうと思い ますね。

さて、本郷さんのお終いの質問です。つまり、何か器械によって元の声が取り戻せる様になら ないかという訳です。これは多くの皆さんが関心をお持ちだと思いますが、現在考えられてい るのは、手術以前の声が保存されているとして、食道発声の声を分析して、此と以前の声を 比較、照合し、新しい声を合成してみようという方向です。 研究は進められてはいますが、大掛かりなコンピュiタ!と人手を要するもの で、実際にどの様な装置がいつ頃出来るのかは予想がつきかねます。 名誉会長も熱心に考えておられるし、私もお力添えは致しますが、当面は、皆さん、食道 発声で少しでも良い声が出る様に頑張ってもらいたいと思います。

(専門医)