放射線と抗ガン剤

@再発と転移の違い

A術後に放射線^35回)を受けたが、医師から は唾液腺は八十パーセント駄目になり、又、 味覚も戻らないと言われ、更に今後は放射線 は使えないとも言われました.近頃、味覚は 少し戻っている様で、唾もよく出ている様に 感じていますが、これは細胞が復活して来た ということでしょうか.又、何かの時に放射 線はどの位までかけられるのでしょうか。

B抗癌剤は九十パーセント効かないということ を聞いたことがあります.友人でもよく再入 除して、抗癌剤治療を受けているのを知って いますが、十パーセントの効果とはどういう   事なのか、ご説明願います.

C空腸による食道形成は、術後の日常生活に何 かとつらい事が多いものです.最近どうして 此の手術が増えているのですか。

(平成14年:神奈川銀鈴会会報29号)

〔答〕 再発というのは、手術によって癌のかたまりを 取り去ったその跡に、再び癌が出てくる事であ るのに対して、転移というのは、癌がリンパ管 や血管を伝わって元の手術をした場所から離れ たところに飛び火すること宣言います。
喉頭癌に於ける転移で多いのは、頸の周りにあ るリンパ節そのもので、皆さんの中にも手術を 受けられた方が屠られるでしょう。リンパ節へ の転移に比べるとずっと少ないですが、血管を 通じて肺に出るということもあります。 次の質問は放射線に関連して、唾と味覚につい てです。放射線治療というのは、要するに相手 とする細胞を放射線によって損傷させる、やっ つける事です。この時に悪い奴だけでなくて、 どうしても近くの健常な部分も或る程度は傷め てしまうんですね。それで此の方は、下咽頭癌 ですから、口の中の唾液腺は相当健全なまま残 っていて、唾に関しては余り困らないとの結果 につながっているのではないでしょうか。又、 味覚の細胞がどの程度損傷を受けたのかにより ますが、追々回復に向かうと考えてよいと思い ます。
 ところで、放射線は非常に有力な味方なんで すが、先程説明した様に、周りの健全な部分へ の影響も避けられないものですから、どうして も或る範囲内でしか使えません。四年以上経っ ているので、大分影響も薄らいでいる筈ですか ら、そういヶ事は無いと思いますが、若し今後 放射線の必要が生じた時にどうかとの問いに対 しては、もう全く使えないということでなく、 或る程度は使えるものと思います。

さて、次の質問は抗癌剤についてです。九十パ !セントは効かないと言われていますがとの問 題です。これも難しい質間なんですが、癌と言 っても種々なタイプがありまして、あまり良い 例ではないかも知れませんが、睾丸にも癌が出 来ることがあります。此に対してはとても良く 効く抗癌剤があります。ところが喉頭の粘膜に 出来た癌に良く効く抗癌剤というのは、今のと ころありません。従って、抗癌剤だけで喉頭癌 をやっつけようとするのは、相当無理だと思い ます。最近では放射線と抗癌剤を併用する治療 法で、従前より放射線を強目にすることで効果 を高めるという方法も採られています。さて、 十パ。ーセントとはどういう意味がなんですが、 抗癌剤によって十人の内一人は癌が非常に小さ くなったとの状態を指すものと理解してよいと 思います。先程から話してきました様に、癌に は種々なタイプがあります。中でも特に若いと いうかとても活発な癌は、一般には悪性で難物 なのですが、こういう癌に抗癌剤がとても良く 効くことがあります。つまり、あれこれの種類 の癌に対して現段階では、抗癌剤だけで治るの は十人に一人程度だということです。 ここで少し具体的な質問から離れますが、大事 な点と思いますのでお話します。従来は抗癌剤 によって癌を撲滅する、或いは非常に小さくず るとの目標に向かって進んできたのですが、最 近はこの考え方を見直したらどうかとの動きが 強くなってきました。つまり、無理矢理に癌を やっつけるのではなくて、あまり大きくなって 暴れられては困るが、適当なところでまずまず 号となしくして居て呉れるなら、こういう癌と 仲良く共存して行くとのスタイルで良いではな いかという訳です。つまり、抗癌剤の治療の目 標を、癌との共存にしようという事です。確か に従来はややもすると強い副作用から逃れられ ず、大きな負担を背負い乍ら、効果は左程見ら れずに終わってしまうとの例が多かったのです から、この辺りで一寸見直して、抗癌剤によっ て癌をおとなしく眠らせておいて、その上で寿 命が全う出来るなら、此も充分に意義があるの ではないかとの考え方です。 更にもう一つ闘いておいてもらいたい事があり ます。それは、今のところ癌治療医の中で本当 に抗癌剤を専門としている医師は少ないという 事です。つまり、私もそうですが、皆さんの主 治医も大抵は耳鼻咽喉科か外科系統であり、手 術によって治す方法が主ですから、抗癌剤につ いては必ずしも専門ではありません。このこと もあって、今後は抗癌剤による治療法には種々 な進歩が期待できると思います。但し、残念で すが、喉頭の粘膜に発生する癌については我が 国のみならず、外国でも現時点では効果のあり   そうな薬は見出されておりません。

  さて、此の方の終りの質問で、どうして最近は   空腸による食道形成の手術が多いのかというこ   とです。下咽頭癌の手術では、喉頭癌の手術と   異なり、新たに食道の一部を作る事が至上命題   になります。二十年位前迄は、肩とか背中の皮   膚を剥ぎ取ってきてチュ!ブ状に作り、これを   食道の一部に移す方法を採ったのですが、非常   に難しい手術で、結果は思わしくありませんで   .した。ところが十年前位でしょうか。血管の接   合技術の進歩他の要因もあって、空腸移植が急   速に普及してきました。此の方も言っている様   に、空腸移植にも種々な問題はあるのですが、   それでも総合的に見て、最も適切な手術の方法   であろうとされている訳です。

(専門医)