放射線と発声音

喉摘手術の前に放射線治療が行われますが、ガンは小さくはなっても無くなる事はない様です。
放射線によって皮膚、筋肉は損傷を受け元に戻るのに一年以上かかります。
食道発声の為には放射線は使わないで喉摘手術をした方が有利ではないかと思いますが如何でしょうか

(平成12年:神奈川銀鈴会会報27号)

皆さんの中には手術の前或は手術の後に放射線治療を受けられた方がかなり居られると思いますが、放射線を医者が選択するのは幾つか理由があります。
まず第一にガンの広がり、性質によっては放射線だけでガンを治すことが出来るケースが相当ありまして、治療の第一選択肢が放射線となる例が少なくありません。
第二の理由は、仮に放射線でガンが消滅しない場合でも、それによって、ガンの広がりを小さく押さえ込む事と手術に至る場合に手術の範囲を縮小する効果があるからです。
更に第三の理由は、皆さんと医者の両方にとって関心の高い転移の問題についてです。つまり転移というのはリンパ管とか血管を伝わってガンが身体のあちこちに飛び火する現象の事ですが、放射線によって細いリンパ管や血管をつぶす事が出来るのです。

以上の三つが放射線を治療に用いる理由ですが、副作用といいますか、後遺症として皮膚がヤケド状になったり筋肉がコチコチに固く成ったりする現象が見られるのも事実です。しかしながら、以前と比べると最近は副作用も軽くなって来ていまして、或る期間を経れば解消に至ります。
又、放射線を使ったか使わなかったかによって食道発声の成功率に違いの無い事が、今までの幾つかの調査によって判っています。従って、現在は副作用が残っているとしても、今後の食道発声に悪い影響はありませんのでご心記無いように願います。

次に同じ方の質問で次の様なものです。過日の中村会長のご講話によれば福岡の大学病院では喉摘手術に際して或る筋肉を残す事により食道発声が容易に出来るとの事でしたが、この件につき説明して欲しいと言うものです。
お答えしますと、手術に際して医者の姿勢は再発の恐れがある部分は出来るだけ取ると共に、残せる部分は極力残そうと言うものでこれは昔から変わっておりません。
ところで喉頭と言うのは、のどにある箱状の器官ですが、食道の入り口から出た筋肉が周りを取り囲んでいます。もし手術に際してこれらの筋肉が残せて食道の 壁に使えるならば、声を出すのに大変役立つであろう事は、医者は良く判っています。
燃しながら一方で食事の機能は保たなければなりませんから、手術の必要上取るべきものは取ってそのあとに例えば空腸の一都を移して新しい食道を形成すると言うことになります。

最近は新しく入会する方の約三割位はこの様な手術を受けておられます。どうぞ皆さんと一緒に頑張って下さい。

(専門医)