北鈴会のみなさまへ (看護婦さんの手記)
看護室の窓から                   
札幌斗南病院婦長 EWさん《「北の鈴」第2号より》
 時々退院された方々が看護室を訪れて下さいます。
何れも入院していた時とは別な明るい表情と、それぞれの環境に馴じんだ安堵の雰囲気を身につけて目を見張らされます。

特に、喉摘手術を受け声を失ったまま退院された方が、ひよっこり看護室にお顔を見せて下さる時は喜ぴと同時に探い感動で胸が一杯になってしまいます。

 「声を失う。」毎日無造作にロからこぼれ出ていた言葉が、もうこの唇を伝ってこない。
その時の不安と苦しみは考えただけで胸が痛みます。
当然、手術前の患者さんの葛藤は一通りのものではありません。全く笑顔のなくなってしまう人。ニ度三度換査だけで入院し、四度目に大決心をして手術を受けた人。手術を受けたいのになかなか耳鼻科病棟に入れなかった人もいました。

 さまざまな患者さん達のプロフィルが私の脳裏をよぎりますが、とりわけ忘れられないのは、子育ての真最中に病魔におかされ、喉頭摘出を受けなけれぱならなくなった若い母親の姿です。
声を失う前に自分の肉声を子供達に残しておくためにテープレコーダーに吹き込むのです。

「。ちゃん。お母さんは病気で声が出なくなってしまいます。もうあなた達を呼ぶことも叱ることもできなくなってしまいます・・・」 やさしい母の声で子供を勇気づける愛のメッセージに、私共一同は共に泣いたこともありました。

 そんな方々が、元気に明るく「コンニチハ」と看護室を訪ねてくれるのです。
食道発声をマスターし、自分のものとなった「第二の声」で語りかけてくれる時、私に人が生きることの素晴らしさを教えてくれます。

 努力と忍耐で食道発声を得た人達は、次に自分と同じ道を辿らねぱならない人の病室を訪れ、励ましと勇気を与えるのです。
ネオボックスを使用して上手に話すのを聞いた時、食道発声のできない高令者の方々には、どんなにか希望が湧いてきたことでしようか。
そこには「同病相哀れむベし。」という姿勢を越えた人間愛の姿が垣問見られるのです。

 手術前に声をテープに残して子供を支えたあの若いお母さんも、見違えるように明るく健康になられて私どもの前に餐を見せて下さいました。
子供は小学生になり、母親の障害をよく理解し、言棄を助けてくれるということも聞きました。

 人間て強いんだなあ!。素晴らしい力を秘めているんだなあ!。


私は新たな発見に再ぴ感動いたしました。もちろん、社会復帰するためには家族の方々の理解と協力は言うまでもありませんが、加えて「北鈴会」の方々の暖かい励ましがあってこそという思いを一層強めました。

 この度「北の鈴」を拝読し、「第二の声」を得るために血のにじむような訓練を続けている方々に思わず頭が下がりました。みなさんの発声訓練の成果は、これから喉頭摘出手術を受けなくてはならない患者さんの道しるべともなるものです。

 どうぞ頑張って下さい。