専門家の助言(その他)
「障害年金の等級変更」に係わる裁定の見直し
(喉摘者の主張が認められる!社会保険庁審査委員会での審査結果)
頭を摘出して声を失った当会会員が、食道発声法を習得して社会復帰を果たした時に、「声を取り戻した」と裁定され、手術当初に認定された障害基礎年金や障害厚生年金の等級を下げられて、支給額が大幅にカットされる という事例が、平成9年に発生しました。
銀鈴会は1年4カ月に亘り、「この裁定は不当である」と再審議を要求して、運動を続けて来ました。

「人間本来の声とは何か」「食道発声で無喉障害が回復したと言えるのか」という基本的な解釈問題であり、保険者や診断責任者である医師の見解を質すという争点に及ぶ議論です。

平成10年12月の再審委員会では、会員当人と中村会長が出席して約2時間に旦って当方の主張を述べ、全面的に降等裁定を覆して旧に復するという新裁定を得ました。

再審議の委員会開催に漕ぎつけるまで多大の努力を要しましたが、福祉団体としての重要な使命と自覚して全力を挙げたことが実を結んだ次第です。

再審委員会の裁定主文は、別紙の通りです。

主文

社会保険庁長官が、平成9年3月14日付で、再審査請求人に対し、同年2月から障害基礎年金の支給を停止し、障害厚生年金の額を改定するとした処分は、これを取り消す。

理由

  1. 再審査請求の趣旨
    再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである.
  2. 再審査請求の経過
    1. 請求人は、喉頭腫瘍(以下「当該傷病」という.〕による傷害の状態が、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める二級の程度に該当するとして、平成5年10月から障害基礎年金及ぴ傷害厚生年金の支給を受けていた。
    2. 社会保険庁長官は、平成8年現況届に添付された診断書により障害の状態を診査し、請求人の当該傷病による障害の状態は、厚生年金保険法施行令別表第一に定める三級の程度に該当するとして、平成9年3月14日付で、請求人に対し、平成9年2月から障害基礎年金の支給を停止し、障害厚生年金の額を改定する旨の処分(以下 「原処分」という。)をした。
    3. 請求人は、原処分を不服として、平成9年5月7日(受付〕、東京都社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対し、審査請求をLた。
    4. 審査官は.平成9年10月29日付で、原処分は妥当であるとして、この審査請求を棄却する旨の決定をした。
    5. 請求人は、なおこの決定を不服として、平成9年12月19日(受付〕、当審査会に対し、再審査請求をした。
    6. 請求人は、平成10年11月28日付で、中村正司を再審査請求代理人(以下「代理人」という。)に立てた。
  3. 問題点
    1. 障害基礎年金は、受給権者が同年令別表に定める得度の障害の状態に該当しなくなったときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止することになっている。
      また、障害厚生年金は、受給権者の障害の程度が従前の障害等級以外の障害等級に該当すると認められるときは、その程度に応じて、その額を改定することができることになっている。
    2. 本件の問題点は、平成8年現況届提出時における請求人の障害の状態が、国年令別表に定める二級の程度に該当すると認められるかどうかということである。
  4. 審査資料
    本件の審査資料は、次のとおりである。
    • 資料1 某総合病院A医師作成の診断書(平成8年10月1日付〕の
    • 資料2 同一病院B医師作成の診断書(平成9年3月31日付〕の写
  5. 事実の認定及び判断
    1. 前記審査資料並びに本件公開審理(審理日平成10年12月3日)の場における請求人、代理人及ぴ保険者代表の陳述を総合すると、次の事実が認められる。
      1. 請求人は、平成3年8月16日、当該傷病と診断され、平成5年7月23日、喉頭全摘術を施行された(資料2)。
      2. 資料1によると、言語機能の障害について、会話の状態は、食道発声により、「日常会話が誰が間いても理解できる。」とされ、そして、食道発声により特に問題なく党働可とされている。
      3. 一方、資料2によると、会話の状態は、「日常会話が誰が聞いても理解できない。」とされ、そして、喉頭全摘により無喉頭者となり、声帯による発声は永久に不可能であるとされている。
      4. 保険者代表は、食道発声でも、いわゆる会話としてコミュニケーションを図れるならば、その状態で認定を行うこととしていると述べるとともに、食道発声も音声の一種であると主張している。
      5. 代理人は、食道発声の習得には絶えざる努力が必要であり、万一発声の練習を途絶えることがあるとたちまち発声不能に陥ると述べている。
      6. 請求人は、食道発声により意見陳述をしたが、発声は不明瞭であり、その意味を理解することは極めて困難であった.
    2. 前記認定された事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
      1. 請求人のような言語機能の障害であって、二級の程度の障害基礎年金及び障害厚生年金が支給される障害の状態として、同年令別表に「音声又は言語機能に著しい傷害を有するもの(5号〕」が規定されている。
        ところで、社会保険庁では、国民年金法及び厚生年金保険法による障害の程度を認定する基準とLて、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準を是認するものである。
        この認定基準によると、「音声又は言語機能に著しい障害を有するもの」とは、次のいずれかに該当する程度のものをいうとされている(第1章第6節/言語機能の傷害)
        1. 音声又は言語を喪失するか、又は音声若しくは言語機能障害のため意志を伝達するために身ぶりや書字等の補助動作を必要とするもの
        2. 4種の語音のうち3種以上が発音不能又は極めて不明瞭なため、日常会話が誰が聞いても理解できないもの
      2. この認定基準には、無喉頭状態及びそれに伴う食道発声についての認定方法が明記されていないため、前記1の(4)によると、保険者は食道発声でも、いわゆる会話としてコミュニュケーションを図れるならぱ、その状態で認定を行うとしている。
        しかし、前記1の(2)によると、請求人は食道発声により「日常会話が誰が聞いても理解できる。」とされてはいるものの、前記1の(6)のように、請求人の陳述の内容を理解することは困難であり、そして、前記1の(5)によると、食道発声には絶えざる努力が必要であり、発声の練習を途絶えることがあるとたちまち発声不能に陥るとされているように、食道発声は、極めて不安定なものであり、それによりコミュニケーションを安定的に図ることは困難である。
        したがって、食道発声の状態により、障害の程度を認定するとする意見を認めることはできまた、前記1の(4)にあるように、食道音声でも一桶の音声であるとされているが、保険者の従来の解釈によると、「肺、気管支、気管から送り出されてきた空気は、咽頭にある声門を通り、声帯を振動させる。
        その結果、音声を生じる。」とされているから、食道音声を音声と認めることはできない。
        そして、前記1の(3)によると、請求人は、喉頭全摘により声帯による発声は永久に不可能であるとされていることから、前記認定基準の(ア)の「音声又は言語を喪失した状態」に相当すると認定することが妥当と判断する。

    3. そうすると、原処分は妥当ではなく、取り消さなければならない。
    4. なお、無喉頭者の障害の程度の認定に当たっては、本裁決の趣旨を踏まえ、適切に対応されることを保険者に要望する。


    以上の理由によって、主文のとおり裁決する。

    平成10年12月25目
    社会保険審査会委員長
    審査長 古賀章介
    審査員 大槻玄太郎
    審査員 大澤一郎

    以上は謄本である。