発声教室と医療機関の連携を
(北海道大学医学部教授;N.Nさん:北鈴会12号)

 山々の緑もやっと濃くたってきた五月十九目、私は真駒内の保養センターで開催された北鈴会発声教室指導員研修会にお招きをいただきました。
久々に皆様の元気な お顔を拝見し、親しいお話ができて心なごむ一日でした。

 数年前から、指導員研修会、宿泊訓練、声の祭典など機会のある毎に皆様のもとに伺って、医学の面から見た食道発声の仕組みについてお話をさせていただいており ます。
これは、本道の食道発声の指導効果を向上させるための努力を、N教授の方針によるものでありすが、私自身も医療の側がリハビリテーションに積極的に関わる必要を強く感じております。
そこで、私ども医療サイドと皆様の間の連携とい.う問題について日頃感じていることを述べさせていただきたいと思います。
これはとりもなおさず私どもの自戒の言葉であるともお読みいただきたいのです。

 喉頭全摘術によって音声機能を失われた患者さんに対するリハビリテーションには、大きく分けて人工喉頭による方法と食道発声による方法があります。
このいずれを選択するにせよ、日常的、社会的に適応出来る音声機能の獲得にはかなりの訓練が必要とされるわげですが、現在の日本では治療を終えられた患者さんのリハビリテーションはほぼ全面的に患者さんの自助努力あるいは北鈴会のような患者さんの団体のボランティア的な活動に頼っているのが現状です。

 米国では若干事情が違い.まして、喉頭全摘後の音声リハビリテーンヨゾには病院に所属する専門職(言語療法士)が深く関わり、医師と患者さんとの仲立ちを兼ねて入院中から社会復帰までの指導にあたっています。

 指導効果の面でどちらがよろしいかは比較の材料がありませんが、医療がリハビリテーションに深く問われはそれだけ、手術法や再建法などによって異なる患者さん個々の状態を把握して発声法に直結する情報を十分に訓練に生かすことが出来ることは確かです。

 最近日本では北里大学などいくつかの医療機関で言語療法士と喉摘者の指導員の協力体制下での発声指導が試みられており、成りゆきが期待されています。
 ふりかえって私どもの地域での音声リハビリテーションの現状を考えてみますと、医療サイドと発声指導を担当される方たちのコミュニケーシヨソの不足を感じざるをえません。

 M会長はこの問題について常々心をくだいておられ、例えば医療担当者が会員の皆様と接する機会を数多く作ってくださり、また、本年度は病棟との直接の連絡によって患者さんの手術前から心理的な問題を含めて北鈴会指導員が支援するシステムを整備して下さいました。
一方私ども医療サイドでは全道に散らばる医療施設の独自性、治療担当者の方針などを統合して、術後の音声リハビリテーショソに理想的な医療環境を作るには、まだまだ道は遠いと思います。
例えば北鈴会に御紹介する患者さんについて医療サイドと指導員が密に連絡を取り合うシステム、多様化してきた最近の治療法、手術法などについて発声機構との関わりの面から会員の理解を深めていただく努力など、考えるべき問題は沢山あります。
これらの課題も私どもの指導者である教授、医療施設長の努力で少しずつ前向きに解決していくことと思います。

 もし、食道発声に関する身近な問題で医療の面からのアドバイスがお役に立つようなことがありましたら、どうぞお近くの発声教室を通じて私でも気軽にお声をかけてください。
 皆様と共に音声リハビリテー.ションの向上に力を尽くせることを念じつつ、御健康と会のご発展をこころからお祈りいたしております。