臨床場面での喉摘後音声リハビリテーション
導入への予備的検討
(北海道大学耳鼻咽喉科:「A.Y」,「N.N],「Y.M」,「M.I」北海道大学工学部:「M.T」)
<音声言語学1999vol-40,no-1より>


 わが国における喉頭全摘出後の音声リハビリテーションは喉頭摘出者自身による篤志的な活動によって支えられてきた歴史がある。
しかし最近では一部の医療機関で喉頭摘出後早期から言語聴覚士による代用音声 の臨床的な指導が行われ,効果をあげているという報告がある。

音声言語障害の治療は個々の病態の理解に立った臨床の専門家によって行われることが本来であるが,とくに無喉頭音声に関しては,臨床家によって行われる指導と発声教室を含めた喉摘者のコミュニティーとの円滑な関係を配慮する必要がある。

これらの問題をふまえて主に入院中の音声リハビリテーション施行に関する予備的検討を行った。

  1. 発声教室への参加
    現在喉摘者福祉団体によって行われている食道音声の指導を理解することを目的として報告者(言語聴覚士臨床経験5年)が定期的に発声教室に参加した。
    参加後10日で水分の摂取を仲立ちとした空気摂取による短時間の食道原音生成が可 能となった。
    正常喉頭者が食道音声を生成する場合,振動は咽頭後壁と輪状軟骨後部の粘膜で起こっていると考えられ,PEsegment対再建食道前壁の振動によって起こる喉摘者の場合と相違する。
    しかし実際に臨床で食道音声を指導する言語聴覚士の多くが自身で食道音声生成可能であることが知られており,その生成機構の研究が必要である.
  2. 喉摘者団体の意識調査
    札幌市における発声教室の指導員および会員に対して臨床場面で行われる音声リハビリテーションに対する意識調査を行った。
    無喉頭音声の啓蒙と普及に関して医療機関と喉摘考福祉団体の連携が必要と考える意見が多かった。
    連携の内容については相互の専門的情報交換をあげるものが多い反面,正常喉頭者の食道音声習得は不可能と考える意見,さらに正常喉頭者による食道音声の指導には否 定的な意見がみられた。
  3. 長期入院者に対する人工喉頭音声の指導
    咽喉食摘後全身管理のため1年6ヵ月にわたって代用音声の再獲得がなされないまま入院中の患者に平成10年4月よりnecktypeの電気式人工喉頭の指導を行い,文レベルでの発話が可能となった。

    喉頭摘出後,臨床場面での音声リハビリテーションには、言語聴覚士による合理的な指導技術の確立、治療担当医との連携、社会復帰へ向けての喉摘者団体との連携などの課題があるが、術式の多様化に伴いさらに医療専門職の積極的な関与が必要である。