初心者への提言

(銀鈴会F指導員)

食道発声に始めて取り組む時一番大切な事は、食道発声の原理原則をしっかりと 理解して正しいやり方の練習をすると言うことである。
この理解が無いままに、声をだしたい一念で自己流の練習をやると、往々にして口腔囁語という邪悪の道に迷い込んでしまう怖れがある。これは誠に始末が悪く、練習すればするほど益々深みにはまり、後での矯正が 大変難しくなるのである。

私は新入会員の最初の指導(オリエンテージョ'ン)を行うとき、先ず食道発声とは何かについて、懇切丁寧な解説を行い、わかりやすく実演をして見せ、食道発声と口腔囁語との区別を明確に認識させている。怖いもの絶対の悪を最初に教えて注意を促すようにするのである。

さて、食道発声の第一歩は、食道へ空気を呑み込む事から始まる。 呑み込み式発声法である。これは口を閉じて、飲食物を呑み込むのと同様の感じで空気を呑み、次の呼間に腹圧をかけてその空気を逆流させながら食道入口部を振動させて「ア」と発声するのである。

この方法は、強制的に空気を食道に呑み込むので食道の入口付近が硬直している初期の段階では最も適しているのであるが、呑み込み時「グッーツ」という雑音の伴うことが多 い。
従って、呑込式でどんどん声が出るようなったなら1〜2ケ月を目度にして、なるべく早い時期に注入式発声法に切り換えるのが望ましいのである。
注入式は、呑込みの様に口を由じること無く唇を軽く緩めた状態で舌根部の注入 動作によって、空気を食道へ押し込むやり方である。
カメラ1こ向かってrチーズ」と言う時の唇の形で空気を注入してはrチーズ」、また注入しては「チーズ」.と言う練習をするのである。10回位連続的にrチーズ」がいえるようになればしめたもので注入式発声法のコツが掴めたと言えるのではないか。

注入式発声法の特徴は空気を食道へ浅く押し込むようにするので、発声が軽快で自然である。呑み込み式の時にあったrグーッ」いう耳障りな雑音が消える。 唇を一々かたくなに閉じないでも連続して発声できる。 一瞬の中に注入し即発声するというスピーディな発声が可能となる。以上から からわかるのは注入式発声法は、実用的にも十分有用と言うことである。

注入式発声法をやっていると、やがて吸入式が出来るようになってくる。 私の感じとしてはこの間も順調なら1〜2ケ月を目度としてよいのではないか。つまり呑込み法を1〜2ケ月、注入を1〜2ケ月やり、入門から3〜4月目にて吸入式発声法に移行したいものである。

吸入式というのは、今までの呑込み式や注入式とは根本的に異なり、口は大きく開いたまま、舌の嚥下運動を全くやらないで、気管口からの吸気に同調して、食道に空気を吸入しようと言うものである。この原理は深呼吸の様に胸をいっぱいの空気を吸い込むと横隔膜が下がって食道内が陰圧になり、この時食道が開げば空気が自然に流れ込むということなのである。
問題は、最初の頃は食道入口部の緊張が中々ゆるまなく、呑込み注入による強制的空気のとりいれに頼らざるを得ないのである。

初心者の方は、焦らずくじけず、空気をしっかり呑んで先ず第一声を出すこと、そして次の五つのことを守って一歩ずつ前に進むことです。

  1. 最初は声を出そうという意識を持たないで唯ひたすら一空気を呑むことに専念する。

  2. 空気の飲めない時は、お茶呑み法を一時的にやるのもよい。何とかして空気の呑み方を工夫する。

  3. 空気を呑んで「ア」とやる時、気管口から空気を排出出せない様にする。片方の手で気管口を上から覆う様にすれば、排気がおさえられその分食道発声の の効果が高まる

  4. )発声練習時には、姿勢を正し、腹圧をしっかりかけ、上半身の力を抜ききばらない

  5. 声が出始め、指導員から正しい食道発声だとお墨付きを貰ったなら、自宅で猛練習をやること。集中的にやっては休憩し、毎日2時間並上やる。多い程良い。

以上厳守のこと。

最後にしめくくりとして付け加えたいのは、最近は短期間にて上達する人が増えている反面、中には声が十分に出ているのに、練習のやり方が生ぬるい人もいるということである。
もっと穣棲的に、自主的な棟習に取り組む様にしてもらいたい。結局は、呑込みから始まった自分の食道発声をとヒまで鍛え上げて行くかは、他でもない自分自身の努力如何にかかっているからである。