食道発声法の上達(技術的なこと)

高音化の私見
(食道発声上達の助言から)

道発声が全国的に普及して急激に伸びてきたことは、喉摘者の社会復帰への手段としてこの価値が認められ、かつ各地に上達者が続出して生きたよい手体を示したことが後続会員を刺激してこのようになったものと思います。

発声の方法にはいろいろな手段がありますが、そのいずれを選ぶかは指導員や先輩と相談して決めることがよいのですが、最近では食道の一部を摘出した人や食道の全部を取って器具による発声法をしてしていた人まで食道発声法を見事にマスターして、立派な会話をしているのを時折り見受けます。

食道発声の可能な範囲が広がったことと、食道発声の魅力に対するすさまじいまでの意欲には、ただただ驚くばかりであります。

ところが、この食道発声がこのように普及して多くの会員に取り上げられている反面、欠陥の一つである、いわゆる高音が出にくいという悩みをしばしば耳にするのであります。

このことは食道発声の前進向上への一里塚として真面目に受けとめて、真剣に解決策に取り組まなければならないと思います。

たしかに人混みのところや、電車の中での発声は低音のため騒音にかき消されて相手に通じないことの体験は誰もが経験しているところですが、一部には食道発声でそこまで望むのは無理ではないかという意見もあってまちまちですが、私は折角努力して手にした第2の声だけに、なんとか工夫して、さらに高音化を図るよう努力してみたいと思うのであります。

私は前から高音問題に関心をもっていますが、体質的に高音が出る人は別として、一般的には声は出来るだけ喉の上部から出すことや日常生活の中で高音を出すように心掛けること、そして発声する時には言葉をなるべく区切って出すと、割合いに高く明瞭な、しかも明るい声が出る意味のことを書いてきました。

私は前記の問題を考えながら、なお高音化の問題に深い関心をもっていますので、私見を述べてみたいと患います。

結論を先に申しますと、まず食道発声法とは食道に吸入した空気を再び戻す時に食道入口部にあるヒダの部分を振動させて声を出すわけですが、そのヒダのところを発声の時に出来るだけ絞るということと、それを中心にした発声諸動作の関連によって声を一層高音化させるという考え方であります。

そこで声を絞るということですが、これは言葉としては理解出来ますが、具体的にはどうしたらよいかということですが、このことを身近な例でいうと、水道の蛇口を開くとゴムホースから水が出ますが、その時ホースの先端を指で押さえるとその加減によって水圧が加わって水は勢いよく遠くに、あるいは 近くに飛ぶことはご存知のとおりです。

そしてこの理論は、空気をポンプで押し出す場合にも同じ事がいえますが、この、いわゆる圧を加えるというのがポイントであります。

この理論をよく頭に入れて、発声する時に十分に腹圧を加えて吸入した空気を上アゴの奥、喉の上部のところに強く押し当てながら、ヒダの部分を絞るような気持で発声して高音を出す調整をするので高音問題に関心をもたれる方は、既に発声技術は上級の部に属されるので、この要領はよく理解していただけることと思います。

また、関連したことでは、従来から私は発声練習には歌を唄うことも加えて練習するのがよいことを申しておりますが、歌はリズムに従って高音や低音を繰り返して歌を構成しています。

そのことがヒダの部分の筋肉を知らず知らずのうちに緩めたり、締めたりして訓練をすることになり、自ら発声上達への道につながるということであります。

ここで述べる高音化問題はこのことと併せてさらに強化したものと考えていただければ良いのです。

ですから歌を歌うときには高音が出ないからといって低音のまま漫然と一本調子で唄わないで、高音の所は少々苦しくとも、また高音が出ないで多少声にならない部分があってもかまわないから繰り返し高音を出すようにして唄い続けることが大切なわけです。

このようにして練習を重ねていくと、いつの間にか高音に定着して会話の響きが強くなり、ひいては騒音の中でも話が通じるようになることは明かであります。

ここで一つ私がある耳鼻科の有名な専門医の前で歌を唄ったときの話を披露しますと、私がある歌を唄い終わると感心したような顔でよくも高音が出るのものだといってほめられました。

そして今の声は1オクターブ以上出ているが、どうしてあのような声が出るのだろうかと首を傾げておられました。

元来、喉摘した部分の筋肉が伸縮する事がない筈だが、どうして高音が出すことが出きりのだろうかと言って専門的見地から自問自答しておられました.

私は、喉を絞る発声練習によって高音が出ることを素人的な考えで訓練していますが、人間の身体には不思議な面が多々あることと、そして訓練のすばらしさを感じている1人でもあります。

元来、食道発声にはよい体調を保つことが基本的条件でありますが、その上に絶え間ない発声訓練と高音化を意識した稽古の反復によって所期の目的が達せられるものと信じています。