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「第二の声」を取り戻し、持ち続ける為に
神奈川銀鈴会会長  上田 武夫

皆さんは、声がどうやって出ているかご存知ですか。息は声ではありませんし、 音と言葉もまた違います。呼吸・声帯振動・共鳴作用の3つが重なり、言葉は声となって相手に届きます。

喉頭がん等の治療の為に喉頭全摘手術を受けた人達は、声帯をなくし、新たに「気管孔」が造られる事で、 呼吸の為に鼻や口を使わなくなり、これまでの「声」を完全に失います。
本会は喉頭摘出者(「以下喉摘者」)とその家族を会員に、「第2の声」を取り戻すための食道を使った 発声法や電動式人工喉頭「EL」の練習教室等を行っています。

同じ会員がボランティアで指導してきた取り組みは、本年で40年目を迎えました。 「沈黙は金、雄弁は銀」(多くを喋るより黙して語らないほうが良い)という諺がありますが、私たちは 「大いに喋る銀」でありたい。
出来れば「鈴のような美しい声」になりたいと思っています。これが「銀鈴会」の名前の由来です。

これまでと全く違う発声法を習得するまでの道のりは平坦なものではなく、練習初日から声に つながる音(原音)を出せるようになる人もいれば、コツをつかむのに数年かかる人もいます。
また食道発声の場合、気道と違って取り込める空気の量が1/20程度に制限されるので、単語を一息 で繋ぐこと、息継ぎを繰り返す練習も必要です。 問題なく伝わる「第2の声」をもち続けるには、トレーニングを一生涯続けなくてはなりません。

医学の進歩により、喉摘者数は減少してきましたが、最近では、食道がんや嚥下障害のある人の 症例が急増しています。 高齢になってから手術を受けた方にとって、こうした発声練習は体力的にも厳しいものです。
また、機械音に似た耳慣れない「第2の声」に周囲から変な声と驚かれた経験から、電話に出ることや、 面識のない人と話すことに怖さを感じる人も少なくありません。

病に打ち勝ち、生きることを選択する為に、「声」を失う手術を決断した人たちが、家族や友人、 社会から孤立することのないように、暮らしの中での充実したコミュニケーションにつながる様、 これからも発声訓練の向上を目指して取り組んでいきたいと思います。

福祉タイムズ 平成25年12月15日発行 745号に掲載