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小さな大目標
伊達隆夫(横浜教室 上級)


 喉頭がん手術退院後、半年間は中々新たな行動を起こす気に成らなかったが、平成21年3月、家内に も押されて漸く神奈川銀鈴会に入会しました。
食道発声の指導員の発声に感心しっつ、自分も同じ人間だからきっと出来るはずだ、と真剣に指導を受けた。 もちろん最初は 「あ」という原音に挑戟するも、スウスウと空気が気管孔から抜け出るだけだった。 何とかならんものか、と家に帰ってもトライしていた。ある朝、目が覚めた時、ベットから起き上がる前に、 上布団を剥ぎ、仰向けに寝たまま両腕で脚の両膝をしっかりと抱え込み、強く一気に両膝で腹を抑え込む動作を繰り返してみた。 すると、ひゅっひゅっ、と勢いよく空気が気管孔辺りから洩れ出る音が聞こえた。
この音がきっかけとなって、やがて最初の原音発声が出来る間にたどり着いた。 そして銀鈴会入会後の3週間目の4月6日、本郷先生に原音「あ」 の発声が出来る事を認定して頂いた。
それからは順調に上達し5月には2音、3音、4音までOKを戴き、七月には6音が出来、11月14日には、 ついに11音OKとなった。小生の名札の真には、しっかりとこれらの軌跡が本郷先生のメモとして記録されている。
この時斯には食道発声は楽しいものだと感じ、自分が上達して行くことが実感できて意欲も旺盛だった。 それ以降は中根、上級と進級してそれなりに頑張って来たが、当初程旺盛な意欲も徐々に薄れ、こりやどうしたものか、と思う事が多くなった。

銀鈴会にも欠席が増え、家でも前ほど練習をしなくなった。多少の後ろめたさを感じるもこれと言った妙案もないまま今年の正月を迎え、なんとかせ なあかん、思い、一つの練習目標を立てた。大それた目標を立てても、どうせ腰砕けが関の山だから最初から此れは出来そうだ、という小さな小さな目標を立てる事にした。  それは、あの島崎藤村の 「千曲川旅情の歌」を最低でも1日3回、しっかり朗読する、というだけのものであった。
これは結果道発声の練習量 としては驚くほど少なく馬鹿げたものだった。
この詩を一回朗読するのにたったの一分、三回やってもたか が三分だ。一日当たり、たったの三分の練習に一体なんの意味が有るのか。 しかし、これ以上の大きな目標を 掲げて挫折したら、もう小生の発声練習の旅は終わるのではないか、と一現実的に考え、兎に角今年はこの目 標をまずは励行することにした。
取敢えず半年余り経過した今、結論から言うと小生にとっては大成功だった。手帳の記録を見ると、 今日6月26日現在で累積朗読会数は802回となっている。
 此れは一日当たりの目標3回でなく4回半と言うペースだ。つまり大幅に目標を上回っている。  もっと意味が有るのは当初の小さな目標故に、気軽に毎日練習を意識して励行できた事、ひとたび練習を始めると 3回の朗読では終わらず、もっと欲が出ておまけに練習をしてしまう事、練習を習慣にしてしまう事が出 来た事、毎日、目標に対する達成感を味わえる事、など等良い事ずくめだった。
この調子で行くと、年末には累計で最低でも1600回は超えるだろうし、此れからの乗りによっては2000回も夢では無かろう。 と独りほそく笑んでいる。実際、若しこの詩を一気に100回読もうと思ってもちょっと出来そうもないので、やは り、「塵も積もれば山となる」方式が自分には合っている。それに喉の為にもー気に沢山よりも毎日少しず つの方は良いだろう。
もう一つのおまけとして、これだけ同じ詩を朗読していると、この詩の味がスルメの 如く濠みだしてきて、とても味わい深いものであると感じる様になった。この詩は単に千曲川での旅情を 歌っているだけでなく、人生そのものを朗々と謡っている様に感じられる。実に壮大なスケールの詩だ。例 えば 「小諸なる古城のほとり、」 は何も小諸出なくても、自分が今いる処を感じられるし、「雲白く遊子悲 しむ」は、淡々と人生の哀愁を噛みしめる自分に重なる。このように全ての文節が千曲川の情景だけでな く、多くを語りかけてくれるのだ。2000回の朗読を達成する頃には、一体何を語りかけてくれるのか、今か ら楽しみでもある。

 小さな大目標と言えば、この他にも小生は全摘者として毎日励行している事がいくつ有る。例えば、起床 前の30分間寝床ストレッチ体操、洗面時のうがいの練習、自力鼻孔内部洗浄、夕刻の七千歩速歩等である。  ほんの少しの練習でも、続ければ上達するから面白い。処で 「大きな大目標」ないことはない。最近は以 前よりも熱心に「飲む、打つ、買う」に凝っている。「のむ」 のは勿論酒は楽しく飲むべし。 義理酒はもう卒業、講釈も必要なし、色々な酒をマイペースで。これに限る。「うつ」 とは弓の事だ。昨年は身障者国体で大会タイ記録で金メダルを獲った。
確かに努力はしたが、思いがけない結果だった。今は射程距離を50メートルまで伸ばして練習している。 八月五日は関東甲信越大会に出る予定だ。久し振りの試合だ。結果はあくまで結果だ。大切なのはそこまで 至るプロセスなのだ。
誤解されては困るが、「かう」 のも楽しい。自分の責任取れる範囲で外資をオンライ ンで売買して楽しんでいる。世界の政治や経済、金銀、白金、マネー、中東情勢、原油、など等、世界の観 点から鳥撤しっつ、雀の涙ほどでは有るが、外資を売買するのは、面白い。その上、適当にポケ防止にもな ろう。最後に小生の夢を吐露しよう。「気管孔のみで呼吸をしている人間である」と言う事を表示する障 害者マークを制定してほしい。紙面の都合上理由は割愛するが、理由を述べなくても同感者が多ければ、こ の夢も実現するかも知れない。皆様宜しく。お元気で。         (横浜教室 上級)

神奈川銀鈴会の会報第39号(平成24年9月)から掲載しました